JP EN

ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ

2022.07.16.Sat.

- 2022.09.25.Sun.

想像力をふくらませ、躍動感たっぷりの筆致で描いたデビュー絵本『オオカミがとぶひ』によって、彗星のごとく出版業界に登場したミロコマチコ(1981- )は、以後国内外の絵本賞や文芸賞をたて続けに受賞し、常に新作が期待される絵本作家のひとりです。いっぽうで、大きな画面いっぱいに生物や植物をのびのびと描き、時には音楽家と共鳴しながら即興でペインティングを行うなど、画家としての活躍にも注目が集まっています。
デビューから約10年、ミロコマチコは、絵本作家、そして画家として、男女問わず、幅広い世代から支持され、デザイナーやアーティストからも一目置かれる存在となりました。とりわけ近年の表現は、従来のエネルギッシュで破天荒なイメージに加えて、どこか霊的な存在をも感じさせるものへと変化し、その世界のさらなるひろがりを感じさせます。自然豊かな奄美大島へ住まいを移し、これまでとは異なる時間の流れや環境のなかで暮らしはじめたこと、そして、この地の伝統的な染色文化に触れたことも、少なからず影響しているのかもしれません。
本展は、「ミロコマチコとは何者なのか」をテーマに、近作・新作を中心とした絵画や絵本原画、書籍の装画や企業とのコラボレーションを展示すると同時に、奄美大島での暮らしや制作風景も紹介しながら、ミロコマチコの底知れぬ魅力に迫ろうとするものです。

【作家あいさつ】

「いきもののわたし」

制作のために、ガラス張りの大きな部屋を借りたときのこと。自然の中にあるその建物は、夜、灯りをつけて絵を描いていると、無数の虫たちが窓に張り付いてくる。虫たちをお腹側から見るのが楽しくて、夢中になって観察していると、不意にピントが虫の奥に合わさり、そこにわたし自身がうつっていた。

「お前はいきものか?」
と、問われたような気がした。ドキリとした。

ずっと自分が生きていることが不思議だった。日々、空気を吸って吐いて、心臓が動いて、生き続けている。けれど、どこか実感がなかった。虫や動物や植物のように生きることに必死になることがない。

ただ唯一、絵を描いている時は生きている実感があった。そしてそれはいきものたちを描いている時に一番感じられた。絵を描くことは出すことのようで入れているという感覚がある。いきものたちを描くことで、わたしは、そのものたちと同じように生きているんだ、ということを取り入れている。それを夜のガラス張りの部屋の中から、虫を通して見たのだろう。

2019年に島に拠点を移した。この島には多数のいきものがうごめいている。それは、実在するいきものばかりではない。草むらの奥、木の上、海面すれすれ、島を覆うほどの大きなもの。物音がする。近寄ってくる気配がする。その時に心に見えてきたもの。そのいきものを描きとめる。それはきっと私自身なのだろう。

ミロコマチコ

映像制作:田村融市郎 音楽:haruka nakamura ピアノ/haruka nakamura エレキギター/田辺玄

見どころ

《山のおまじない》,2017 ©mirocomachiko

近作

絵本作家デビュー前後から、延べ50回以上のライブペインティングを行ってきたミロコマチコ。ライブペインティングで描かれた大きな作品をはじめ、2016年から2019年に描かれた絵画が一堂に会します。近作からは、ダイナミックなタッチでいきものの本質を捉えるよく知られたミロコマチコの表現から、大きく変容するきざしを見て取ることができます。

《キンパ》,2018 ©mirocomachiko

装画・アートディレクション

絵本作家や画家として活躍するほか、書籍の装画や企業とのコラボレーションなど、イラストレーションやアートディレクションといった仕事も数多く手がけています。2015年以降、表紙のイラストを手掛ける『味の手帖』の原画など、ミロコマチコの装画・アートディレクションの仕事を紹介します。

《ドクルジン》,2019 ©mirocomachiko

近作絵本の原画

1年約1冊のペースで絵本を発表してきたミロコマチコは、2014年を境にその表現がさらに色彩豊かになり、においや音など五感を刺激するものへと変容していきました。世界最大規模の絵本原画コンクールであるブラティスラヴァ世界絵本原画展(第26回)において金牌を受賞した『けもののにおいがしてきたぞ』(2016年、岩崎書店)をはじめ、『まっくらやみのまっくろ』(2017年、小学館)、『ドクルジン』(2019年、亜紀書房)の3冊の近作絵本の原画を紹介します。

《からだうみ》,2020  画像提供:東北芸術工科大学

山形ビエンナーレ

ミロコマチコにとってターニングポイントとなった、2016年、2018年に参加した山形ビエンナーレ。山形ビエンナーレで発表した、人間と野生動物それぞれの視点からつづられた「おはなし」でできた山車型の立体絵本《あっちの耳、こっちの目》や《からだうみ》を紹介します。人間と野生動物が同じ場面を共有しながらも、両者の意識が交錯することはなく、自然のなかにおける人間の在りかたを問いかけます。

《 2 匹の声》,2022  ©mirocomachiko

新作

山形のような圧倒的な自然の中では、東京のような便利な暮らしは何の役にも立たないことを実感したミロコマチコは、いきものとして生きるために2019年6月に奄美大島に住まいを移します。奄美大島で暮らすうちに、見えないものの音を聞き、その気配を感じるようになったミロコマチコが描く、決まったかたちを持たない、不思議ないきものたちが現れます。また、市原湖畔美術館会場での開催に合わせて描き下ろされた《2匹の声》も初公開します。

プロフィール

Photo:Shoji Onuma

ミロコマチコ[1981-]

1981年大阪府生まれ。生きものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催。絵本『オオカミがとぶひ』(2012年、イースト・プレス)で第18回日本絵本賞大賞を受賞。『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で第45回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくのふとんは うみでできている』(あかね書房)で第63回小学館児童出版文化賞をそれぞれ受賞。ブラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)で、『オレときいろ』(WAVE出版)が金のりんご賞、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)で金牌を受賞。その他にも著書多数。第41回巌谷小波文芸賞受賞。展覧会『いきものの音がきこえる』が全国を巡回。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。2016年~2022年『コレナンデ商会』(NHK Eテレ)のアートワークを手がけた。

基本情報

開館時間平日/10:00~17:00、土曜・祝前日/9:30~19:00、日曜・祝日/9:30~18:00(最終入館は閉館時間の30分前まで)
休館日毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)
料金一般:1,000( 800 )円 / 大高生・65 歳以上:800( 600 )円
*()内は 20 名以上の団体料金。
*中学生以下無料・障がい者手帳をお持ちの方とその介添者( 1 名)は無料
*支払いは現金のみとなります。
主催市原湖畔美術館[指定管理者:(株)アートフロントギャラリー]、朝日新聞社
協力亜紀書房、朝日出版社、朝日新聞出版、味の手帖、iTohen、岩崎書店、幻冬舎、講談社、小学館、newton、ブレーメン、ブロンズ新社
助成⽂化庁「ARTS for the future!2」
展覧会公式サイトhttps://mirocomachiko-cm.exhibit.jp/

ワークショップ・イベント

イベント

終了「ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ」オープニングセレモニー

LINK

イベント

終了ライブペインティング「海を混ぜるⅥ」

LINK

ワークショップ

終了ワークショップ「海のカーテンをつくろう」

LINK

カタログ

「ミロコマチコ いきものたちはわたしのかがみ」展覧会公式図録

発行:朝日新聞社
仕様:図版オールカラー、276ページ
本体価格:3850円(税込)
デザイン:漆原悠一(tento)