想像力をふくらませ、躍動感たっぷりの筆致で描いたデビュー絵本『オオカミがとぶひ』によって、彗星のごとく出版業界に登場したミロコマチコ(1981- )は、以後国内外の絵本賞や文芸賞をたて続けに受賞し、常に新作が期待される絵本作家のひとりです。いっぽうで、大きな画面いっぱいに生物や植物をのびのびと描き、時には音楽家と共鳴しながら即興でペインティングを行うなど、画家としての活躍にも注目が集まっています。
デビューから約10年、ミロコマチコは、絵本作家、そして画家として、男女問わず、幅広い世代から支持され、デザイナーやアーティストからも一目置かれる存在となりました。とりわけ近年の表現は、従来のエネルギッシュで破天荒なイメージに加えて、どこか霊的な存在をも感じさせるものへと変化し、その世界のさらなるひろがりを感じさせます。自然豊かな奄美大島へ住まいを移し、これまでとは異なる時間の流れや環境のなかで暮らしはじめたこと、そして、この地の伝統的な染色文化に触れたことも、少なからず影響しているのかもしれません。
本展は、「ミロコマチコとは何者なのか」をテーマに、近作・新作を中心とした絵画や絵本原画、書籍の装画や企業とのコラボレーションを展示すると同時に、奄美大島での暮らしや制作風景も紹介しながら、ミロコマチコの底知れぬ魅力に迫ろうとするものです。
【作家あいさつ】
「いきもののわたし」
制作のために、ガラス張りの大きな部屋を借りたときのこと。自然の中にあるその建物は、夜、灯りをつけて絵を描いていると、無数の虫たちが窓に張り付いてくる。虫たちをお腹側から見るのが楽しくて、夢中になって観察していると、不意にピントが虫の奥に合わさり、そこにわたし自身がうつっていた。
「お前はいきものか?」
と、問われたような気がした。ドキリとした。
ずっと自分が生きていることが不思議だった。日々、空気を吸って吐いて、心臓が動いて、生き続けている。けれど、どこか実感がなかった。虫や動物や植物のように生きることに必死になることがない。
ただ唯一、絵を描いている時は生きている実感があった。そしてそれはいきものたちを描いている時に一番感じられた。絵を描くことは出すことのようで入れているという感覚がある。いきものたちを描くことで、わたしは、そのものたちと同じように生きているんだ、ということを取り入れている。それを夜のガラス張りの部屋の中から、虫を通して見たのだろう。
2019年に島に拠点を移した。この島には多数のいきものがうごめいている。それは、実在するいきものばかりではない。草むらの奥、木の上、海面すれすれ、島を覆うほどの大きなもの。物音がする。近寄ってくる気配がする。その時に心に見えてきたもの。そのいきものを描きとめる。それはきっと私自身なのだろう。
ミロコマチコ