アーティストとつくる絵画展
市原湖畔美術館では 2013 年の開館以来、毎年、市原市内の幼稚園、保育園、小学校から絵を公募し、「市原湖畔美術館子ども絵画展」を開催してきました。第一線のアーティストが審査にあたり、美術館を会場に子どもたちの絵とコラボレーションする、このユニークな展覧会は、年々評価を高め、昨年は5484点の応募があり、その中から選ばれた305点が入選作として展示されました。
第10 回は、今、最も注目を集めるアーティストのひとり、鴻池朋子さんをお迎えし、従来のあり方を一新した展覧会となります。
「選ぶ」ことへの問い
人間はそれぞれ全て違う体を持ち、全く違う感覚を通して各々の世界を感知しています。一人として同じ人がいません。そのこととアートは深い深いつながりを持っています。
鴻池さんは、これまで行ってきた「選ぶ」という審査をやめて、今回は応募者の子どもたち全員の作品を展示することにしました。そして、できあがった作品を評価することよりももっとずっと前にある、「なぜ人はものをつくるのか」という根源的な場所まで、みんなで立ち戻り、語り合えるような展覧会を、今こそやってみたいと考えました。そのためには、その子のたった一人にしかない身体の通路を介してやってきた作品、全ての子どもたちの全ての豊かな違いが展覧会に必要です。
以上のようなことから、本展では募集フォーマットを大きく変更し、参加者全員の作品を展示することとなりました。
市原市小学校の図工部会での先生たちとの意見交換を通して、これまでの自動的に子どもたちの作品を出展することはやめ、夏休みの自由課題のひとつに取り入れるなどして、子どもたちへの出展を呼びかけること、学校は子どもたちの応募の窓口になることなどが決まりました。その結果、一般からの応募も含め、1124点の作品が集まりました。
テーマ「人間以外のもの 人間がつくったもの以外のもの」
鴻池さんから出されたテーマは、「人間以外のもの、人間がつくったもの以外のものを描いてください」。この呪文のようなテーマについて、子どもたちへのチラシには、「呪文のようなテーマですが、自分で考えて、描いてください」、先生たちへのチラシには、「先生から子どもたちには一切説明をしないでください。子どもたちが自分自身で考え、想像力を働かせて、自ら描いてほしい」と書き添えられました。
子どもたちとの対話―学校出張ワークショップでの取り組み
「学校の先生たち、子どもたちと直接、会って、話したい」という鴻池さんの意向を受けて、市原市立若葉小学校で2022年9月・10月と、出張ワークショップが行われました。それは、作品制作を行うのではなく、子どもたちの作品制作における相談や質問を受ける場となりました。子どもたちは初対面のアーティストとの出会いに少し緊張があったものの、鴻池さんの自己紹介・作品紹介、彼女と対話していく中で、ヒントや気づきが得られたようでした。
人間がことばを獲得する「以前」の表現、自然界と人間界の境界にある人間「以外」の世界の表現
全作品1124点をみた鴻池氏は、「ことばを獲得していく過程が見える」と語ります。幼児から小学校6年生までの幅広い年齢層の子どもたち。年齢が上がり、ことばが豊富になっていくにしたがって表現にも変化が見えてきます。ことばを得て成長していく途中である子どもたちが考える、「人間以外のもの 人間がつくったもの以外のもの」とは、いったい何だったのでしょうか。子どもたちの作品を通して、人間とは、表現とは、ことばとは、さまざまな問いと戯れてください。
鴻池朋子がつくる1124人の子どもたちとの作品展
子どもたちの描いた「人間以外のもの 人間がつくったもの以外のもの」――海、山、空、宇宙、植物、鳥や人間以外の動物…。かたちのないもの。お化けや神様は人間がつくったもの?中には、人間や人間が作ったものを描いてしまった子どもたちもいましたが、それらも含め、今回応募された1124点全ての作品が、鴻池さんの視点を通して、博物館のように分類され展示されます。
「みる誕生会」
2020年『鴻池朋子 ちゅうがえり』展(アーティゾン美術館)から始まり、『みる誕生』(高松市美術館、静岡県立美術館)でも開催されたイベント、「みる誕生会」。見えない人・見えにくい人と、見える人がそれぞれペアになり、手の感覚でみたり、語り合いながら会場をめぐる鑑賞会です。目でみることが前提になっている美術館で、視覚以外の感覚で会場をめぐり、「みる」とは何なのかを問い直します。
今回の子ども絵画展でも、このプロジェクトを参考に、子どもたちの作品を「みて」、語り合う鑑賞イベントを開催します。